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名古屋地方裁判所 平成6年(わ)1250号 判決

国籍

韓国(慶尚南道昌原郡 北面仁谷里)

住居

名古屋市南区上浜町一二七番地

会社役員

井上こと朴正行

一九四四年一〇月一二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官桑原和敏出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金一八〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、名古屋市港区藤前一丁目六一三番地において、「日光自動車」の屋号で自動車及び自動車部品の販売等の事業を営んでいた(なお、平成四年九月から株式会社に組織変更)ものであるが、個人営業の時期の自己の所得税を免れようと企て、所得税の確定申告に際し、所得金額に関する正当な収支計算をせず、適宜の過小な所得金額を計上するいわゆる「つまみ申告」の方法によるなどして所得の一部を秘匿したうえ、

第一  平成元年分の実際総所得金額が六〇一八万九八四〇円であったのにかかわらず、確定申告書提出期限内である平成二年三月一四日、名古屋市熱田区花表町七番一七号所在の所轄熱田税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総所得金額が一一九八万二九七五円で、これに対する所得税額が一七七万九六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額二四六六万九五〇〇円と右申告税額との差額二二八八万九九〇〇円を免れ

第二  平成二年分の実際総所得金額が六一五五万四六一九円であったのにかかわらず、確定申告書提出期限内である平成三年三月一四日、前記熱田税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が一二三二万二七三五円で、これに対する所得税額が一八八万一六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額二五三五万二〇〇〇円と右申告税額との差額二三四七万〇四〇〇円を免れ

第三  平成三年分の実際総所得金額が七六一九万八三〇三円であったのにかかわらず、確定申告書提出期限内である平成四年三月一二日、前記熱田税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が一七三七万八三二三円で、これに対する所得税額が三七七万五二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額三二六〇万四〇〇〇円と右申告税額との差額二八八二万八八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

(かっこ内の番号は記録中の証拠等関係カードの検察官請求番号を示す。)

判示全事実について

一  被告人の検察官(三通)に対する各供述調書

一  井上雅裕こと朴政清(二通)、谷口みどり及び林重彦の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の査察官調書(甲5ないし24)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲2)

一  大蔵事務官作成の証明書(甲25)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲3)

一  大蔵事務官作成の証明書(甲26)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲4)

一  大蔵事務官作成の証明書(甲27)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項、二項に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑の併科刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、以上の刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金一八〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は判示のとおり、中古自動車部品等販売業を営んでいた被告人が、個人営業当時、いわゆるつまみ申告の手段により、三年度にわたり計七五〇〇万円余りの所得税を脱税していた事案である。本件は脱税額が多額におよんでいる上、ほ脱率も平均すると九割を超えるなど極めて高い。かつ、被告人は、業務基盤の安定や家族のためといった動機から、ほ脱した所得を手元に留保して蓄積していたなどの諸点を考慮すると、犯情は決して芳しいものではない。

しかしながら、本件は従前から個人営業でいわば丼勘定の会計処理を行ってきた被告人が、業務規模の拡大後も同様の感覚から脱却できず杜撰な会計を行い、その延長でつまみ申告を行ったという比較的単純な事案と評価することもできる。また、本件の事実に関しては修正申告の上本税を全て納付し、重加算税、延滞税についても現在分割納付中である。その他本件外の市民税等についても現在納付中である。さらに、本件に対する査察後、前記体質を改善するべく、法人組織にして税理士を入れ、経理の体制を改善し、適正な納税を行うべく努めていることも窺われる。

以上の事実を考慮した場合、懲役刑についてはその執行を猶予し、主文程度の罰金刑を科するのが相当であるものと判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 田邊三保子)

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